主要な参照元
もう「一部のオタク」の話ではない
海外のAI活用シーンで、ある組み合わせが異常な注目を集めています。Obsidian × Claude Code。この2つを組み合わせた記事が、次々と数百万 views を記録。主要6本だけで合計 1,240 万 views、ブックマーク数は 8 万件を超えました。
しかも、これは一般的なAIインフルエンサーのバズではありません。元OpenAI創設メンバーの Andrej Karpathy 氏 の提唱をきっかけに、Obsidian CEO の Steph Ango 氏 自らがAI連携スキルを開発し、GitHub で公開。Stars は 25,000 を超えました。ツールの作り手自身が「AI と一緒に使う」前提でプロダクトを進化させています。
毎朝PCを開くと、何も説明しなくてもAIが昨日の続きから動いてくれる。自分の仕事の文脈を毎回説明し直す必要がない。 — 海外ユーザーの証言
これは一部のギークの実験ではなく、知的労働の新しい標準になりつつあります。
AIを「記憶喪失の派遣社員」として使っていないか
海外のAI活用コンサルタント sourfraser 氏の表現が、この状況を一言で言い当てています。
ほとんどの人はAIを記憶喪失の派遣社員のように使っている。 — sourfraser
毎朝出社するたびに、自分が誰で、何の仕事をしていて、何を頼みたいのかを一から説明する。それがどれだけ非効率か、想像してみてください。
Claude Code を使うたびに「AIエージェントのビジネス活用を研究していて、最近は○○のテーマに関心があって…」と毎回打ち込んでいた。記憶の設計をした今では、この説明は一切不要です。AIが自然に文脈を保持したまま仕事を進めてくれるようになりました。
同じ Claude を使っていても、渡す「記憶」の質で出力はまったく変わります。記憶なしのAIは「人格を持った検索エンジン」にすぎません。記憶を持ったAIは、あなたの仕事を本当に理解している同僚になります。
AI の性能差ではなく「記憶の設計」で差がつく時代
AI活用の焦点は、ここ数年で大きく変わってきました。
多くの人はまだ「プロンプトを工夫する」段階にいます。しかしプロンプトの工夫は1回限りの効果です。毎回いいプロンプトを書く必要がある。
それに対して「記憶の設計」は複利的に効いてきます。AIに渡す記憶が増えるほど、出力の精度は自動的に上がっていく。今日始めた人と半年後に始める人では、蓄積された記憶の量に埋められない差が生まれます。
AI の「性能」で差がつく時代はもう終わりました。同じモデルを使っている以上、差がつくのは「何を記憶として渡しているか」です。
知識管理はずっと「続かない問題」と戦ってきた
「第二の脳を作ろう」という試みは、実は何十年も前から繰り返されてきました。そして、ほぼ全てが同じ理由で破綻してきました。
フォルダ整理
誰もが最初にやる方法。100 個を超えたあたりから「あのファイルどこだっけ」が日常になる。
ブックマーク
ワンクリックで保存できるが、1 ヶ月後に同じキーワードで検索し直している。「保存して満足」の罠。
PARA 法
Tiago Forte 氏提唱の 4 分類。タスク整理には向くが「何を知っているか」は蓄積しない。
Zettelkasten
Niklas Luhmann が考案。70冊以上の著書を生んだが、手動メンテの負荷が重すぎて続かない。
エバーグリーンノート
Andy Matuschak 氏提唱。優れた手法だが完璧主義に陥りやすいのが弱点。
結局こうなる…
「整理 → メンテが溜まる → スキップ → 品質劣化 → 散らかったメモに戻る → 半年後にまた挑戦」の無限ループ。
全ての従来手法に共通する弱点は、「人間がメンテする前提」だったことです。
1945年、Vannevar Bush が「Memex」という個人知識装置を構想しました。しかし Bush も、メンテを誰がやるかという問題は解決できなかった。81年越しの問題に対する最初の実用的な回答が、LLM Wiki です。
LLM Wiki — 歴代 PKM の集大成
元 OpenAI 創設メンバーで元 Tesla AI 部門トップの Andrej Karpathy 氏 が提唱した「LLM Wiki」。Claude Code をはじめとする AI がソースを読み込み、自動で Wiki を構築し、メンテナンスまで引き受けます。
実は LLM Wiki は、歴代の PKM 手法の良いところを全て取り込んでいます。
- Zettelkasten の「1ページ1概念 + リンクで相互接続 + インデックス」
- エバーグリーンノート の「概念が使うたびに進化する」
- MOC(Maps of Content) の「知識の全体地図をインデックスで作る」
違いはただ1つ。人間がやるか、AI がやるかです。Zettelkasten の構造を AI が自動で作り、エバーグリーンノートのように概念を AI が育て、MOC のようにインデックスを AI が常に最新に保つ。過去の手法が「良いのは分かるけど続かない」で終わっていた問題を、AI が根本から解決しました。
なぜ Obsidian が選ばれるのか
「Notion でもいいのでは?」と思った方もいるかもしれません。Claude Code との組み合わせで選ばれているのは Obsidian です。理由は 3 つ。
プレーンテキストだから AI が直接読み書きできる
Obsidian のファイルは全てマークダウン形式です。Claude Code はファイルシステムを直接操作できるエージェントなので、ノートをそのまま読み、書き、リンクを追加できます。API やプラグインを介する必要がありません。シンプルでフラットな構造だからこそ、AI との相性が最も良いのです。
ローカルだから速い
データは全て自分の PC 内にあります。クラウド同期の待ち時間がない。サービスが終了してもデータが消えない。Claude Code がファイルを読み書きする速度は、ローカルファイルが最速です。
ツール側が AI 前提で進化している
Obsidian CEO の Steph Ango 氏自身が AI エージェント連携スキルを開発して GitHub で公開しました。25,000 Stars 超え。ツールの作り手自身が「AI と組み合わせて使う」前提でプロダクトを進化させています。
ただし、Obsidian の強みはシンプルさにあるので、不用意にプラグインを増やすこと自体が目的にならないよう注意が必要です。
記憶の持たせ方は 3 つある
「AI に記憶を持たせる」方法は、現在大きく 3 つのアプローチがあります。それぞれ独立したやり方で、目的によって使い分けます。
LLM Wiki 方式(Obsidian × Claude Code)
Karpathy 氏が提唱し、本記事で解説している方法。Obsidian の vault に生の素材を入れ、Claude Code が Wiki として自動構造化する。使うほど Wiki が育ち、回答の精度が上がる。知識の複利効果が最も強い方法。蓄積するソースが増えるほど 1 回の質問あたりのコストも上がるため、コスト感覚を持ちながら使うことが大事。1 つのテーマを長期間追いかける使い方に向いている。
NotebookLM 方式(Google)
Google が提供する NotebookLM にソースを投入するとすぐに質問できる。手軽さは群を抜いている。ただし知識は蓄積しない。プロジェクトごとの使い切り型で、長期的な知識の複利は生まれない。「今すぐこの資料について聞きたい」場面に最適。
Skills / CLAUDE.md 方式(Claude Code 単体)
Claude Code の CLAUDE.md に業務の文脈を書いておく方法。Obsidian は使わず、プロジェクトフォルダ内で完結。「AI にどう動いてほしいか」を定義でき、判断基準を AI に組み込む。「溜める」だけでなく「使う」に最も近い方法。
どれが正解ということはありません。目的によって使い分けるのが現実的です。本記事では、最も話題になっていて複利効果も高い LLM Wiki 方式 を中心に解説していきます。
Claude Code を始めよう
Claude Code は Anthropic が提供するエージェント型のAIツールです。通常のAIチャットとの最大の違いは、ローカルでファイルを直接読み書きできること。会話が終わってもリセットされない「記憶」をファイルとして持てます。
CLAUDE.md というファイルをプロジェクトフォルダに置くだけで、AI が自動的に読み込みます。「あなたは何者か」「何を大事にしているか」「どう振る舞ってほしいか」を書いておけば、毎回説明し直す必要がなくなります。
料金プラン
まずは Pro の $20/月 で始めて、使用量が足りなくなったら Max 5x に上げるのが現実的です。
インストール
CLI 版とデスクトップアプリ版があります。ターミナルに慣れていない方はデスクトップ版から始めるのがおすすめです。CLI 版は Node.js v18 以上が必要です。
npm install -g @anthropic-ai/claude-code
インストール完了後、任意のフォルダで claude と打つだけで起動します。
Obsidian を始めよう
Obsidian は無料のノートアプリです。ローカルにマークダウンファイルとして保存され、サブスクリプションなし、ロックインなし。データは完全にあなたの手元にあります。
インストールと初期設定
- Obsidian 公式サイト からダウンロードしてインストール
- 「Create new vault」で新しい Vault を作成(Vault = ノート保管フォルダ)
- 保存場所を指定(デスクトップやドキュメントフォルダなど好きな場所でOK)
最初に作るファイル:Memory.md
Vault を作ったら、まず 1 つだけファイルを作ってください。Memory.md です。sourfraser 氏はこのファイルを「新入社員のオンボーディング文書」と表現しています。以下を書きます。
- あなたの仕事は何か
- どんなプロジェクトを進めているか
- よく使うツールは何か
- 仕事上の目標は何か
- 大事にしている判断基準は何か
20 分もあれば十分です。完璧である必要はまったくありません。
Vault のフォルダ構成
Karpathy 氏が推奨する 3 フォルダ構造を使います。
├── .raw/ ← 生素材。記事、PDF、メモを何でも投入
├── wiki/ ← AI が生成・維持する知識ページ
└── outputs/ ← 成果物。レポート、下書き等
.raw/ には整理せずに何でも放り込みます。整理は AI がやるので、あなたは投入するだけ。Vault の場所を Google Drive に設定すると、複数マシン間で自動同期されます。
2 つのスキルで全てが動く
Claude Code と Obsidian を組み合わせるための道具が、2 つのオープンソースプロジェクトとして公開されています。
obsidian-skills
AI に「Obsidian の使い方」を教えるスキルセット。マークダウンの書き方、データベースビュー、CLI 操作、Web ページの抽出(defuddle)など 5 スキルを含む。
claude-obsidian
AI に「第二の脳を構築・維持させる」ためのスキルセット。Karpathy の LLM Wiki パターンに基づく 10 スキルを含む。
claude-obsidian の主要コマンド
/wiki— 初回セットアップ。Vault 構造を自動構築ingest [file]— 素材を読み込み、8–15 個の Wiki ページを自動生成/save— 今の会話を Wiki ノートとして保存/autoresearch [topic]— 3–5 ラウンドの Web 調査を自動実行/canvas— ビジュアルボードの作成・操作lint the wiki— ヘルスチェック。リンク切れや矛盾を検出
6 つの Wiki Mode
- Website — SEO 向けコンテンツ Wiki
- GitHub — コードベースのアーキテクチャ Wiki
- Business — 競合分析、プロジェクト管理
- Personal — 第二の脳、目標管理
- Research — 論文、調査研究
- Book/Course — 講義ノート、読書記録
インストール方法
方法 1:プラグインとしてインストール
# マーケットプレイスを追加
claude plugin marketplace add AgriciDaniel/claude-obsidian
# プラグインをインストール
claude plugin install claude-obsidian@claude-obsidian-marketplace
方法 2:リポジトリをクローン
git clone https://github.com/AgriciDaniel/claude-obsidian
cd claude-obsidian
bash bin/setup-vault.sh
作られる Vault の構造
/wiki を実行すると、以下の構造が自動で作られます。
├── .raw/ ← 生の素材(Claude は読むだけ)
├── wiki/
│ ├── index.md ← 全ページの目次(自動更新)
│ ├── hot.md ← 直近の文脈キャッシュ(約 500 語)
│ ├── log.md ← 操作ログ
│ ├── overview.md ← Vault 全体のサマリー
│ └── {トピック}/ ← 1 概念 1 ページの Wiki ページ群
├── _templates/ ← ノートのテンプレート
└── _attachments/ ← 画像・PDF
歴代手法の良いところが全て入っています。
wiki/{トピック}/の 1 概念 1 ページ → Zettelkasten の構造- ingest のたびに Wiki ページが更新される → エバーグリーンノートの進化構造
index.mdが全体を俯瞰する → MOC(Maps of Content)
おすすめプラグイン
- Templater — ノートのテンプレート自動適用
- Obsidian Git — 15 分ごとに自動コミット。バージョン管理に
- Web Clipper — ブラウザ拡張機能。ワンクリックで .raw/ に保存
別のプロジェクトでも同じ知識ベースを使いたい場合は、そのプロジェクトの CLAUDE.md に Vault のパスを書いておくだけで連携できます。
日常運用:入れる → 聞く → 育つ
第二の脳の日常運用は、3 つの動作の繰り返しです。
① 入れる
.raw/ フォルダに素材を放り込み、ingest [file] と打つだけ。AI が素材を読み込み、8–15 個の Wiki ページを自動生成。関連ページへのリンクも自動作成されます。1 ページあたり平均 12 個の wikilink が生成され、知識のネットワークは自然に密になっていきます。
投入するものに制限はありません。読み終えた本のメモ、ポッドキャストの要点、業界記事、調査レポート、プロジェクトの振り返り、失敗の教訓。何でも素材になります。
② 聞く
Wiki に質問します。「○○について何を知っている?」と聞くだけ。Claude Code はまず hot.md(最近のコンテキストキャッシュ、約 500 語)を読み、次に index.md(全体目次)を確認し、関連するページだけを参照して回答を組み立てます。
この構造のおかげで、vault が数千ページに成長しても、1 回の質問で消費するトークンはほぼ変わりません。/autoresearch [topic] で Web 調査の自動実行も可能です。
③ 育つ
/save で会話の内容を Wiki に保存します。AI との対話で得た気づきや結論が、知識として蓄積されます。
人間はソースを選び、よい質問をし、意味を考える。残りは全て Claude の仕事だ。 — defileo
朝のブリーフィングも自動化できます。毎朝 Claude Code が Inbox と DailyNotes をスキャンし、タスクを抽出して当日のノートを生成。10–15 回の ingest ごとに lint the wiki を実行するのがおすすめです。リンク切れ、孤立したページ、矛盾する記述を自動で検出してくれます。
使えば使うほど最強になる「複利」
sourfraser 氏は、週単位での成長を描写しています。
「作って満足」の罠に注意
第二の脳を構築した人の多くが、「作って満足」で止まってしまいます。セットアップに時間をかけて、見た目を整えて、それで完了。日常で使う習慣がつかず、数週間後にはただのフォルダに戻っている。
避けるべきパターンは明確です。
- プラグインの導入に時間をかけすぎる
- 完璧なフォルダ構造を設計しようとする
- 最初のノートの質にこだわりすぎる
vault は完璧でなくていい。本物であればいい。 — defileo
最初の 3 ページは質が低くていいのです。大事なのは「入れる → 聞く → 育つ」のサイクルを日常に組み込むことだけ。
エラーの複利にも注意
「回答を保存すると、エラーも複利で溜まる」という問題もあります。間違った情報が蓄積されれば、AI の回答も歪んでいく。対策は lint the wiki コマンドによる定期的なヘルスチェック。矛盾するページ、出典不明の主張、リンク切れを検出して修正してくれます。10–15 回の ingest ごと、または月 1 回が目安です。
最初の 1 ヶ月ロードマップ
セットアップはあっという間に終わります。いきなり汎用的なものを作ると挫折するので、1 テーマに絞って始め、効果を体験してから横展開するのがおすすめです。
例えば「営業の商談準備前の情報整理に過去資料をまとめて入れる」「過去のウェビナー登壇資料を全て入れる」「好きな YouTuber の動画リンクを全て入れる」など。得意なもの、好きなもの、普段利用頻度の高いものを選びましょう。
環境構築と最初の投入
- Claude Code と Obsidian をインストール
- obsidian-skills と claude-obsidian を導入
/wikiで初回の Vault 構造を構築- Memory.md を書く
- 手元にある素材を 3 つ入れる
インプットのサイクルを回す
- 読んだ記事、調べたこと、ミーティングメモを .raw/ に投入
- 1 日 1–2 回の ingest を習慣にする
- 疑問が浮かんだら Wiki に質問してみる
AI が「知っている」状態になる
- 「先週調べたあれ」に AI が即答する体験
- 異なるソース間の関連性を AI が指摘し始める
- 自分の判断や気づきが Wiki に蓄積されていく
まとめ
1945 年に Vannevar Bush が構想した Memex。人間の知識を拡張する個人装置という夢は、81 年の時を経て、Claude Code × Obsidian という形で実現しつつあります。
- AI 活用の次のフェーズは「記憶の設計」。プロンプトは 1 回限り、記憶は複利で効く
- 知識管理ツールの歴史は「続かない問題」の歴史。AI がメンテを引き受けたことで初めて解決した
- Obsidian はプレーンテキストで AI 直接読み書き可能。Claude Code との親和性が最も高い
- obsidian-skills が基盤層、claude-obsidian が応用層。Obsidian CEO 自ら開発した obsidian-skills は 25,000+ Stars
- 日常の運用は「入れる → 聞く → 育つ」の 3 ステップ。vault が成長してもコストは一定
- 最大の失敗は「作って満足」で止まること。最初の 3 ページは質が低くていい
- セットアップはあっという間。今週末始めれば、1 ヶ月後には「先週調べたあれ」に AI が即答する
ツールはその背後のシステムほど優れていない。 — sourfraser
Claude Code も Obsidian も、あくまで道具です。大事なのは、道具の背後にある「記憶のシステム」を設計すること。それが、あなたの AI 活用を「記憶喪失の派遣社員」から「あなたの仕事を本当に理解している同僚」に変えてくれます。